炎症性粉瘤とは
粉瘤が炎症を起こすと赤くなり、痛みや腫れを伴う場合があります。
炎症を起こす主な原因は細菌感染と異物反応です。
粉瘤の中には皮脂や垢といった老廃物が溜まっており、細菌が増殖しやすい環境になっています。
人間の皮膚表面には様々な細菌類が常におり、これを常在菌と言います。常在菌は悪玉菌などから肌を守ってくれる必要な存在なのですが、粉瘤の中など特殊な状況で爆発的にその数を増やすと人体の免疫が細菌を排除しようと防衛反応を示します。その反応の結果が炎症という形で症状に現れます。
また粉瘤は袋状の組織に老廃物などが溜まってできる腫瘍ですが、圧力を受けるなどして、その袋が潰れ老廃物などが漏れ出すと異物反応により、炎症を起こすケースも少なくありません。最近では細菌感染よりも異物反応が原因の炎症性粉瘤の方が多いと考えられています。
元々が小さな粉瘤だったとしても炎症を起こすことで、何倍にも腫れあがり、痛みを伴います。炎症の程度は様々ですが、脇や鼠径部といった関節部分やデリケートな部分に出来た場合には腕や足を挙げられないほどの痛みを伴うことがあります。炎症性粉瘤を放置しているとやがて増殖した細菌が全身にまわり、発熱を伴うことまであるのです。
また炎症を放置していると膿瘍となり、破裂することがあります。そうすると皮膚組織は破壊され、壊死していきます。
自壊した後の組織は炎症性粉瘤が治った後も色素沈着を残し瘢痕となってしまうことがあります。
炎症を起こした場合は、手術後の傷痕をより綺麗にするためにも、なるべく早く治療を行い、早期根治を目指すことをおすすめします。
炎症性粉瘤の治療
炎症性粉瘤の治療方法は主に以下の3つです。
➀抗生物質の内服
➁切開排膿
③手術による摘出
①抗生物質の内服
粉瘤の炎症は細菌感染以外が原因の場合が多く、抗生物質の内服による治療は必ずしも奏効があるとは限りません。仮に細菌感染による炎症だったとしても粉瘤内には血管が通っていないため、炎症を起こしている内容物内部まで有効成分を運ぶことができず、大きな粉瘤の場合は十分な効果を得られないことが多いです。
②切開排膿
切開し、老廃物を排出(排膿)を行えば、炎症の原因を排除でき炎症を一時的に抑えることが可能です。しかし再発のリスクや痛みは残るため、洗浄や経過観察のために通院が必要になります。
③手術による摘出
抗生物質の内服や切開排膿では十分な効果をあげられない場合が多いため、当院では炎症性粉瘤の場合でも日帰り手術を行っています。
炎症がある場合、被膜と呼ばれる袋状の組織を切除することが難しいのですが、可能な限り腫瘍を摘出します。毎日通院する必要はありません。基本的には約1ヶ月後の再診のみとなります。
炎症の期間が短い場合は袋ごと摘出が可能ですが、炎症の期間が長くなると袋を一塊には摘出できない場合があります。一塊に摘出できない場合、再発のリスクが高いいため、できるだけ早い手術をおすすめします。
炎症があるかないかの違い
炎症の有無で手術の難しさや術後の傷痕の綺麗さ、痛みの程度が大きく異なります。
・炎症がある場合、袋状の組織(被膜)の摘出が難しいため、被膜の一部が体内に残り再発する可能性が上がります。
・炎症により組織が壊死し、周辺組織の治癒が遅れるため、色素沈着が起こりやすく、瘢痕が強く残ります。瘢痕は皮膚や周辺組織を縮めながら治るため、皮膚に凹みがおこります。この凹みに対しては治療が非常に難しく、炎症の期間や程度に比例して強く起こります。
・炎症により組織破壊が起こると、炎症部位でブラジキニン、ATP、プロトンの発痛物質やプロスタグランジンの感作物質が産出されます。これにより疼痛が引き起こされ、手術の際の局所麻酔における痛みが強くなります。また炎症が強い場合、その部位のpHはアシドーシスに傾いており、塩基型の麻酔薬の割合が減少し、キシロカインの効果は減弱します。
当院では可能な限り痛みが出ないよう、局所麻酔を炎症周辺に十分に打つことで疼痛を緩和するよう工夫しています。
院長紹介
日本形成外科学会 専門医 古林 玄
私は大阪医科大学を卒業後、大阪医科大学附属病院、市立奈良病院を経て東京へ行き、がん研有明病院、聖路加国際病院で形成外科の専門医として様々な手術の経験を積んできました。
がん研有明病院では再建症例を中心に形成外科分野の治療を行い、乳房再建および整形外科分野の再建を中心に手術を行ってきました。聖路加国際病院では整容的な面から顔面領域の形態手術、また、先天性疾患、手の外科、全身の再建手術に携わって参りました。
この経験を活かし、全身における腫瘍切除を形成外科的に適切な切除を目指し、傷跡の目立たない治療を提供できればと考えております。