見た目が粉瘤と似ている皮膚の疾患
粉瘤の状態によってはイボやおできに症状が似ていることがあります。しかし、イボやおできとは治療法が大きく異なります。違いを知ることで、より早く適切な治療が受けられます。粉瘤自体の知名度が低いため、まずは粉瘤についてご説明し、その後イボやおできについて触れてまいります。
粉瘤について
粉瘤(ふんりゅう)は、皮膚の下に袋状の組織ができ、その中に垢や皮脂などの老廃物がたまってできる良性腫瘍です。
粉瘤の症状と治療法
初期症状としては、触れた時に感じる小さなしこりです。進行すると袋の中の老廃物が増えて大きくなることがあり、腫瘍が圧迫され内容物が出ると独特の悪臭を発することがあります。細菌に感染したり、袋状の組織が破れて老廃物が皮膚内部に漏れると炎症を起こし、赤く腫れて痛みを伴います。炎症を起こした粉瘤は、「炎症性粉瘤」「化膿性粉瘤」と呼ばれます。これら炎症性の粉瘤は内容物が体外に出なくても悪臭を発することがあります。
内容物を除去しても袋状の組織が残っていると再発を繰り返し、自然治癒することはありません。根治のためには手術による摘出が必要です。また、炎症が強い状態で手術するよりも、抗生物質など用い一度炎症を鎮め、後日手術を行うことでより小さな傷痕に抑えられる場合があります。
イボについて
イボは医学的には「疣贅(ゆうぜい)」と呼ばれ、尋常性、老人性、伝染性軟属腫、扁平、尖圭コンジローマなど様々な種類に分けられます。年齢性別問わず発症する可能性がある皮膚疾患であり、主な原因はウイルス感染などがあげられます。
イボができる原因
ウイルス感染が原因であることがほとんどで、HPV(ヒトパピローマウイルス)の感染が特に多いと言われています。ウイルスが皮膚にできた微細な傷から感染し発症します。イボの原因と言われるウイルスは100種類以上あります。
イボの症状
尋常性疣贅
手足の指にできることが多く、平らで小さく隆起します。大きさはほとんどのものが数㎜程度ですが、稀に2㎝程度まで大きくなることがあります。衣類などに当たって擦れる場所にできた場合、角化し石灰色になり、大きくザラついた感触に変わることがあります。痛みなどの症状は出ませんが、稀にかゆみが出ることがあります。
足底疣贅
足の裏にできたイボが、体重によって圧迫され平らになったものです。周辺の皮膚が硬く、分厚くなり、表面がザラザラとした感触になります。色は白や黄色っぽいことが多く、大きさは数㎜から3㎝程度で、見た目は魚の目やタコに似ています。タコだと思って表面を削ってしまうと出血する可能性があります。体重をかけた時に神経を圧迫し痛みを感じることがありますが、触れただけでは痛むことはありません。
イボの治療
保険適用で受けられる治療は「液体窒素治療」と「イボ剥ぎ法」の2つです。
液体窒素治療
マイナス196度のスプレーを患部に吹きかけ、ウイルスに感染した細胞を破壊します。また、免疫を活性化させる効果があるため、免疫によるウイルスの排除も期待できます。治療には痛みが伴い、治るまで数ヶ月にわたり複数回の通院が必要なため根気がいる治療法です。
イボ剥ぎ法
局所麻酔を行った上で手術によりイボを切除します。1回の治療で完治できる確率が高く、形成外科で手術を受けることで傷痕がより綺麗な仕上がりになることが期待できます。
粉瘤とイボの違い
イボと粉瘤は似た症状が現れることがありますが、治療法は異なります。ただし、どちらも形成外科による日帰り手術でより綺麗に治療することができます。どちらか判断がつかない場合には、お気軽にご相談ください。
おでき、癤(せつ)について
一般的には「おでき」と呼ばれるできものもよく粉瘤と間違えられます。おできは医学的には「癤(せつ)」と呼ばれる皮膚の感染症です。原因は「黄色ブドウ球菌」で、毛包という毛穴内部や皮脂腺などから感染し発症します。
おできができる原因
癤(せつ)は黄色ブドウ球菌が感染することによって発症しますが、黄色ブドウ球菌は常に皮膚に存在している常在菌です。常在菌である黄色ブドウ球菌は通常、外部の細菌の侵入を防いだり増殖を抑えたりしてくれるのですが、体調不良などによって免疫力が落ちると感染が起こり、癤(せつ)ができてしまいます。
癤(せつ)は皮膚の深い場所(真皮層から皮下組織層)が炎症を起こしている状態です。「結節(けっせつ)」や「硬結(こうけつ)」といったしこりのような症状がおきます。
おできの症状
初期の頃から腫れに厚みがあり、しこりのような感触があります。ニキビと違い、おできは初期からしこりのような厚みがあり、なかなか治りません。
ほとんどの場合腫れが出てから3~5日経過すると、中心から膿が出ます。炎症が強いと膿の量も増え、さらに悪化すると複数個所からにじむように出てくることもあります。痛みやほてりなども起こりやすく、膿が多い場合は速やかに膿を排除する処置を行う必要があります。
粉瘤とおできの違い
触れるとしこりを感じるという初期症状については、おできと粉瘤は似ていると言えますが、おできの場合、痛みが比較的早い段階で起こるため区別しやすいと言えます。
治療については、粉瘤は外科的な手術で摘出しなければ根治できませんが、おできは内服薬などで治すことも可能です。ただし悪化してしまった場合には排膿処置などの外科的な対応が必要になることがあります。
このようにおできの場合も外科的処置が必要になるケースもありますので、粉瘤とおでき、どちらか迷う場合には、形成外科の受診をおすすめします。
院長紹介
日本形成外科学会 専門医 古林 玄
私は大阪医科大学を卒業後、大阪医科大学附属病院、市立奈良病院を経て東京へ行き、がん研有明病院、聖路加国際病院で形成外科の専門医として様々な手術の経験を積んできました。
がん研有明病院では再建症例を中心に形成外科分野の治療を行い、乳房再建および整形外科分野の再建を中心に手術を行ってきました。聖路加国際病院では整容的な面から顔面領域の形態手術、また、先天性疾患、手の外科、全身の再建手術に携わって参りました。
この経験を活かし、全身における腫瘍切除を形成外科的に適切な切除を目指し、傷跡の目立たない治療を提供できればと考えております。