慢性膿皮症は難病指定ではない!原因や治療方法を解説

慢性膿皮症は治りにくく再発もしやすい皮膚疾患ですが、難病指定はされていません。

しかし患者のQOL(生活の質)は低く、日常生活に支障をきたしていることが明らかになっています。
慢性膿皮症は早期の発見と、症状に応じた治療が重要です。

この記事では、慢性膿皮症の症状や治療方法について解説します。慢性膿皮症と疑われる症状のある方は、早めに適切な医療機関を受診しましょう。

慢性膿皮症(化膿性汗腺炎)とは

慢性膿皮症(化膿性汗腺炎)とは、皮膚の深い層にある汗腺や毛包が慢性的に炎症を起こし、膿を伴うしこりや腫瘍ができる疾患です。

脇の下や鼠径部、臀部、乳房のまわり、肛門付近などに好発します。性別問わず、思春期以降に発生する疾患です。症状や原因は以下のとおりです。

慢性膿皮症の症状

慢性膿皮症は、ゆっくりと慢性的に細菌感染を繰り返す皮膚疾患です。具体的には、以下のような症状を繰り返します。

  • ・初期段階の症状: 感染の兆候として、皮膚の下にニキビのような小さなできものができる。
  • ・腫瘍化と痛み: 初期の小さなできものが、次第に痛みを伴う腫瘍に成長する。
  • ・瘻孔: 複数の腫瘍がつながって、瘻孔(ろうこう)と呼ばれるトンネルのような穴が形成される。
  • ・膿の排出と悪臭: 瘻孔ができると膿が排出されることがあり、悪臭を発する。次第に痛みも強くなる。
  • 慢性膿皮症は治癒しても再発しやすく、再発を繰り返すことで瘢痕化し、硬い皮膚になることがあります。皮膚の見た目が変わるだけではなく、感触が変わる可能性があります。

慢性膿皮症の原因

慢性膿皮症のはっきりとした原因は解明されていませんが、以下の要因が関係していると考えられています。

原因 補足
毛穴の閉塞 ・毛穴が閉塞することによって内部で炎症が発生し、細菌感染を引き起こす
・慢性的な発症に寄与する
遺伝 ・家族に慢性膿皮症を患っている人が多い
喫煙 ・喫煙は免疫機能に影響を及ぼし、皮膚の健康を損なう要因となる
肥満 ・肥満はホルモンバランスを乱すため、皮膚の健康状態にも影響がある
・摩擦や汗がたまりやすい部位での感染リスクが増加する

なお、衛生状態の悪さやデオドラントスプレー・パウダーの使用は、慢性膿皮症の原因とは関係ないとされています。

慢性膿皮症は難病指定の疾患ではない

慢性膿皮症は、難病指定の疾患ではありません。正確な患者数が分かっておらず、治療のガイドラインも選定されていないのが現状です。日本皮膚科学会総会の調査によると、慢性膿皮症の患者のQOL(生活の質)が低いことが明らかになっています。この調査では国民の標準値を50点とし、以下の項目に基づいてアンケートが実施されました。

  • ・身体機能
  • ・日常役割機能(身体・精神)
  • ・体の痛み
  • ・全体的健康観
  • ・活力
  • ・社会生活機能
  • ・心の健康
  • 調査結果によると、慢性膿皮症の患者はいずれの項目でも35~40点程度という低いスコアを示しました。この結果は、患者が身体的・精神的に多くの困難を抱えていることを示しています。今後、新しい治療法の開発やガイドラインの整備が進むことによって、患者のQOLが改善されることが期待されています。

参照:化膿性汗腺炎とは?|日本皮膚科学会総会

難病指定とは

日本の医療制度における「難病指定」とは、発病の原因が明確ではなく、治療方法が確立していない疾患で、長期の療養を必要とするものを指します。

この概念は、2015年に施行された「難病法(難病の患者に対する法律)」に基づいています。難病法では、以下の4つの要件を全て満たすことが難病の定義とされています。

  • ・発病の原因が不明である
  • ・治療方法が確立されていない
  • ・希少な疾患である
  • ・長期の療養が必要である

 

難病指定を受けた患者は、難病法や障害者総合支援法に基づき、医療費助成を受けられます。患者の経済的負担を軽減し、必要な治療を受けやすくすることが目的です。

参照:難病の患者に対する医療等に関する法律 | e-Gov 法令検索

慢性膿皮症の治療方法

慢性膿皮症の治療方法は、症状の重症度や状態によって異なります。一般的には、以下のような治療が行われますが、どちらの場合でも生活改善(減量や禁煙)が求められます。

外科手術

外科手術は、患部を切開して膿を出し、できものそのものを取り除く治療方法です。

症状が進行している場合は、必要に応じて皮膚を大きく取り除かなければならないケースもあります。取り残すと再発の恐れがあるため、完全に切除しなければなりません。場合によっては、皮膚の欠損を補うために、皮膚移植を行うこともあります。また、手術後の経過観察も重要なので、適切なアフターケアをしなければなりません。

外科手術は慢性膿皮症の治療に効果的な手段ですが、症状に応じた最適なアプローチが重要です。

薬での治療

慢性膿皮症の発見が早期で軽度の場合、患部の清潔を保ちながら抗菌薬の内服薬や外用薬を用いて、内科的治療が行われることもあります。

細菌感染を抑え、症状の改善を図ることが目的です。症状が重症化している場合は、抗菌薬の皮下注射が必要になることもあります。

内科的治療は手術を避けられるため、患者様の負担を軽減する方法として有効です。症状の進行度に応じて、適切な治療方法の選択が求められます。

慢性膿皮症を発症したら何科を受診する?

慢性膿皮症を発症したら、形成外科もしくは皮膚科を受診することが一般的です。

外科手術による治療なら形成外科

症状が重症化し、広範囲な外科手術が必要な場合は、形成外科を受診することが推奨されます。

形成外科医は外科手術が専門なので、患部の適切な切除を行い、治療後の傷跡が極力目立たない治療を行えます。美容的な面にも配慮し、最小限の傷で済むような手術方法を提供してくれるでしょう。

薬による治療なら皮膚科

症状が軽度の場合は、まず皮膚科を受診しましょう。

薬による治療が可能な場合、そのまま治療に進めます。ただし、膿の排出や瘻孔の除去など外科的な処置が必要な場合は、形成外科の受診を勧められることがあります。形成外科では、より専門的な治療や再発を防ぐための適切な手術を受けられます。

慢性膿皮症に似ている症状

慢性膿皮症に似ている症状はいくつかあります。

なお、「慢性膿皮症」とインターネットで検索すると「家族性慢性膿皮症」や「壊疽性(えそせい)膿皮症」などの疾患が検索結果に出てくることがありますが、どちらの疾患も慢性膿皮症とは異なる疾患です。慢性膿皮症と似ている疾患は以下のとおりです。

毛嚢炎(もうのうえん)

毛嚢炎は赤みや膿を伴うできもので、周囲の皮膚が赤く腫れることがあるため慢性膿皮症と間違われやすい疾患の一つです。慢性膿皮症との大きな違いは、以下のとおりです。

毛嚢炎 慢性膿皮症
好発箇所:首の後ろ・太もも・陰部など 好発箇所:脇の下・鼠径部・臀部・乳房のまわり・肛門付近など
治療の予後:改善することが多い 治療の予後:改善しづらく再発しやすい

毛嚢炎は比較的軽症で、適切な治療によって改善が期待できる一方、慢性膿皮症は治療が難しく再発しやすい特徴があります。

粉瘤(ふんりゅう)

粉瘤は、皮脂や老廃物が溜まることによってできる良性の腫瘤です。炎症を起こすと赤く腫れ、痛みを伴うことがあります。慢性膿皮症との大きな違いは以下のとおりです。

粉瘤 慢性膿皮症
炎症
重症化すると炎症を起こす
炎症
慢性的な炎症を起こす
瘻孔
形成されない
瘻孔
形成されることが多い

粉瘤は、重症化しない限り症状が現れないことが多いのに対し、慢性膿皮症は持続的な炎症が見られます。

まとめ

慢性膿皮症は難病指定されている疾患ではありません。

とはいえ治療が難しく、疾患するとQOLが低下することも明らかになっています。

治療が遅れると、症状の悪化や再発が懸念されるため、早期に医療機関を受診し適切な治療を受けることが重要です。

当院は、全身の腫瘍切除の外科的手術を専門としており、傷跡の目立たない治療を行っております。慢性膿皮症と疑われる症状のある方は、当院へご相談ください。

院長紹介

日本形成外科学会 専門医 古林 玄

東京皮膚のできものと粉瘤クリニックふるばやし形成外科 新宿院 院長 古林 玄

私は大阪医科大学を卒業後、大阪医科大学附属病院、市立奈良病院を経て東京へ行き、がん研有明病院、聖路加国際病院で形成外科の専門医として様々な手術の経験を積んできました。

がん研有明病院では再建症例を中心に形成外科分野の治療を行い、乳房再建および整形外科分野の再建を中心に手術を行ってきました。聖路加国際病院では整容的な面から顔面領域の形態手術、また、先天性疾患、手の外科、全身の再建手術に携わって参りました。

この経験を活かし、全身における腫瘍切除を形成外科的に適切な切除を目指し、傷跡の目立たない治療を提供できればと考えております。

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