背部の粉瘤の摘出です。
大きさは3.5㎝程あります。皮膚の浅い部位に出来たため、大きく膨らんでしまっています。約3,4年前から腫瘍を認めていましたが、大きくなるまで放置していました。
大きくなると、袋がなんらかの形で破れてしまい、異物反応が始まります。それが炎症です。
炎症が起こると3つの嫌な事が起こります。
➀術後の再発率が上がる
➁傷跡が残りやすい
③麻酔の際に痛みが強い
炎症時の術後の再発率が上がる理由は開口部が行方不明になったり、炎症が袋の破れた真上を中心に出来るため、開口部とは離れたところに新しく穴が開いてしまう事が挙げられます。意外にもこの事を知らずに手術してしまう形成外科の先生も多いため、再発率があがってしまいます。なので炎症の際にはかなり経験が問われます。炎症の時には開口部がほとんどの場合でズレていることを強く意識しなければいけません。
傷跡が残る理由は炎症の強さと程度がそのまま色素沈着や傷跡になってしまうからです。強くダメージを受けた皮膚はそれだけ強く治ろうとするため、硬く、ひきつれて治ります。体質や場所によってはケロイドになってしまう事もあります。炎症を早く治めるためにも早めに手術をすることが大事だと考えています。炎症が治まってから手術をすることが一般的とはされていますが、抗生剤はあまり効かないことが多く、炎症が進行し、皮膚に穴を開けて、大きな傷跡になってしまう事も多々あります。切開排膿のみの場合でも中に老廃物は沢山残っているため、炎症はなかなか治まりません。毎日洗浄処置という辛い処置が待っています。
炎症の際に麻酔が効かない理由は炎症により㏗がずれることだと言われています。そのため、麻酔薬が広がらず、効きにくくなります。また、炎症により体は緊急事態宣言を発令するため、痛み物質を大量に放出します。そのため、少し触られるだけでも痛くなります。
話はズレましたが症例を紹介します。今回の症例は大きいですが、炎症のないピュアな状態で非常にシンプルで簡単に手術を行う事ができました。
これは局所麻酔をした後の画像です。
局所麻酔にはボスミンが入っているため、血管収縮作用により皮膚の血流が止まり、組織が白くなっています。
局所麻酔にボスミンが入っている理由は
➀血管収縮作用により、術中の出血を減らせる
➁組織の血流を止めることにより、麻酔薬が長く留まり、持続時間が伸びる
③麻酔薬には極量といって使用できる量が体重で決まっているのですが、そこに長く麻酔薬が留まることにより、極量が増やすことができます。
これらも意外に知らずに麻酔を使用している先生も多いですが、非常に重要なポイントになります。また当院では麻酔の痛みを和らげるためにメイロンを混ぜることで、phを調節し、体への負担を軽減しています。
中身の老廃物を排出することで袋を小さくしています。
それにより小さな穴から、袋を取り出すことが出来ます。
袋の切除画像です。
創部の縫合です。粉瘤が大きくなってしまい、皮膚の余剰はありますが、これくらいなら時間とともに皮膚は目立たなくなります。
耳などの皮膚の薄い場所では余剰皮膚を同時に切除しないと、皮膚のたわみが術後に出てしまうため、注意が必要になります。
動画も載せておきます。
形成外科専門医 古林玄