「しこりが急に大きくなって、赤く腫れあがって痛い」
という悩みを抱えて来院される方がいらっしゃいます。
これは炎症粉瘤である可能性が高いです。
炎症粉瘤とは、通常の粉瘤に細菌の侵入などによって炎症や化膿が起きたものです。
炎症粉瘤は通常の粉瘤と異なり、痛みが伴い様々な症状が出ます。
その場合、放置せずにすぐに近くの病院に行くことが重要になります。
ここでは赤みを帯びた粉瘤である炎症粉瘤について、その特徴から治療方法まで詳しく解説しています。
少しでも炎症粉瘤の不安がある方は、ぜひ参考にしてください。
粉瘤の赤みと症状
前述した通り、赤く腫れあがっている粉瘤は炎症粉瘤です。
通常の初期段階の粉瘤は、痛みはなくしこりのように感じる程度です。
元々が小さな粉瘤だったとしても、炎症を起こしたり化膿したりすると、何倍にも腫れあがり痛みを感じることになります。
脇や鼠径部といった関節部分やデリケートな部分にできた場合には、腕や足を挙げられない、座れないほど痛みを伴うことがあります。
この炎症粉瘤の痛みを我慢して放置していると、やがて増殖した細菌が全身にまわり、発熱を伴う可能性もあるのです。
また、放置していると化膿がひどくなり、皮膚の下の袋状の組織が破壊され、膿が溜まった状態になってしまいます。
これを膿瘍(のうよう)と言います。
この膿瘍が破裂すると、皮膚組織は破壊され、壊死していきます。
炎症粉瘤になると、粉瘤の袋状の組織が脆く破れやすくなるため、何かに少し当たったり押されたりするだけで破裂してしまい、中の膿が出てくることがあるのです。
このように自然に膿が排出されることを「自壊」と呼び、自壊した後の組織は炎症粉瘤が治った後も色素沈着を残し瘢痕となってしまうことがあります。
炎症を起こした場合は、手術後の傷痕をなるべく綺麗にするためにも、できるだけ早く治療を行い、根治をすることが重要になります。
炎症粉瘤はここまで進行してしまっている!?
赤みがある炎症粉瘤は、粉瘤の成長段階でどこまで進行しているのでしょうか?
まずは粉瘤のサイクルを解説します。
1:定常期
炎症や腫脹、痛みが無く、症状が落ち着いている状態です。
2:炎症期
軽度の炎症が起きている状態で、我慢できる程度の痛みが出ます。
できもののような粉瘤の状態で、ぶよぶよとした膿はほぼありません。
3:感染・膨脹期
炎症が更に増し、触ると痛みが生じる状態です。
袋の中にはぶよぶよとした液体の膿があり、確認できます。
4:破裂期
袋の中に膿が溜まり過ぎて、破裂した状態です。
袋の中にあったドロドロとした膿が外に出ています。
5:治癒期
膿を出し切ったあとで、炎症や腫れが無くなっている状態です。
放置をすれば粉瘤が再発する可能性があり、そうすると定常期に戻りグルグルとサイクルを繰り返します。
このように炎症粉瘤は、感染・膨脹期や破裂期といった粉瘤の進行が進んでしまっている状態になるのです。
粉瘤が炎症を引き起こす原因
粉瘤の中には皮脂や垢といった老廃物が溜まっており、細菌が増殖しやすい環境になっています。
人間の皮膚表面には様々な細菌類が常におり、これを常在菌といいます。
常在菌は悪玉菌などから肌を守ってくれる必要な存在なのですが、粉瘤の中など特殊な状況で爆発的にその数を増やすと人体の免疫が細菌を排除しようと防衛反応を示します。
その反応が炎症という形で症状に現れます。
また粉瘤は袋状の組織に老廃物などが溜まってできる腫瘍ですが、圧力を受けるなどして、その袋が潰れ老廃物などが漏れ出すと異物反応により、炎症を起こすケースも少なくありません。
近年では細菌感染よりも異物反応が原因の炎症粉瘤の方が多いと考えられています。
炎症があるかないかの違い
炎症の有無は手術の難しさや術後の傷痕の綺麗さ、痛みの程度が大きく異なります。
・炎症がある場合、袋状の組織の摘出が難しく、粉瘤が再発する可能性が上がります。
・炎症により色素沈着が起こりやすく、瘢痕が強く残ります。
瘢痕は皮膚や周辺組織を縮めながら治るため、皮膚に凹みが起こります。
この凹みに対しては治療が非常に難しく、炎症の期間や程度に比例して強く起こります。
・炎症により組織破壊が起こると炎症部位でブラジキニン、ATP、プロトンの発痛物質やプロスタグランジンの感作物質が産出されます。
これにより疼痛が引き起こされ、手術の際の局所麻酔における痛みが強くなります。
また炎症が強い場合、その部位のpHはアシドーシスに傾いており、塩基型の麻酔薬の割合が減少し、キシロカインの効果は減少します。
当院では可能な限り痛みが出ないよう、局所麻酔を炎症周辺に十分に打つことで疼痛を緩和するよう工夫していますので、ご安心ください。
炎症粉瘤の治療
炎症粉瘤の治療方法は以下の3つです。
①抗生物質の内服
粉瘤の炎症は細菌感染以外が原因の場合が多く、抗生物質の内服による治療が必ずしも奏功があるとは限りません。
仮に細菌感染による炎症だったとしても粉瘤内には血管が通っていないため、炎症を起こしている内容物内部まで有効成分を運ぶことができず、大きな粉瘤の場合は十分な効果を得られないことが多いです。
②切開排膿
切開し、老廃物の排出を行えば、炎症の原因を排除でき炎症を一時的に抑えることが可能です。
しかし再発のリスクや痛みは残るため、洗浄や経過観察のために通院が必要になります。
③手術による摘出
抗生物質の内服や切開排膿では十分な効果をあげられない場合が多いため、当院では炎症粉瘤の場合でも日帰り手術を行っています。
当院では「くりぬき法」と「切開法」という2種類の手術方法を用いています。
くりぬき法
特殊な器具を用いて皮膚に素早く小さな穴を開けて、そこから粉瘤の内容物を絞り出し、その後しぼんだ袋状の組織を引き抜く方法です。
手術時間は5~20分と短時間で施術が可能で、患者様の負担も少ない方法です。
切開法
粉瘤直上の皮膚を切開し、粉瘤をまるごと摘出する方法です。
再発する可能性が低いため、患者様の状態によって切開法を選択する場合があります。
炎症がある場合、被膜と呼ばれる袋状の組織を切除することが難しいのですが、可能な限り腫瘍を摘出します。
毎日通院する必要はなく、基本的には約1ヶ月後の再診のみとなります。
当院の特徴
特長1:入院が不要!日帰り手術に対応
当院では、たとえ炎症性の粉瘤であっても基本的に日帰り手術が可能です。
事前の診療で粉瘤の大きさや数、炎症の有無などを確認し、日帰り手術が可能か否かを慎重に判断します。
患者様の日常生活になるべく影響がないように「日帰り手術」にこだわっています。
手術に全身麻酔が必要な場合や悪性腫瘍の疑いがある場合などは提携している大学病院などをご紹介させていただき、安心で円滑な治療を心掛けています。
特長2:痛みを軽減させる手術
手術の際は局所麻酔を用いて痛みを軽減させます。
局所麻酔を注射する際も、極細の針を使用し薬剤の配合も工夫するなど痛みを軽減する配慮を行っています。
痛みが苦手な方はお気軽にご相談ください。個別の対応も可能ですので、痛みを軽減するための様々なご提案を致します。
院長紹介
日本形成外科学会 専門医 古林 玄
私は大阪医科大学を卒業後、大阪医科大学附属病院、市立奈良病院を経て東京へ行き、がん研有明病院、聖路加国際病院で形成外科の専門医として様々な手術の経験を積んできました。
がん研有明病院では再建症例を中心に形成外科分野の治療を行い、乳房再建および整形外科分野の再建を中心に手術を行ってきました。聖路加国際病院では整容的な面から顔面領域の形態手術、また、先天性疾患、手の外科、全身の再建手術に携わって参りました。
この経験を活かし、全身における腫瘍切除を形成外科的に適切な切除を目指し、傷跡の目立たない治療を提供できればと考えております。