お尻のしこり、できもの(粉瘤)治療/炎症あり
本日の症例は炎症性の粉瘤です。動画は下に載せています。
10年前からお尻に粉瘤があり、ある日、痛みを伴い炎症を起こしてしまいました。
大きな粉瘤の方が大きな炎症が起きるので注意が必要です。今回の腫瘍も置いておくと、更に炎症は広がり、組織の破壊が進み、皮膚が壊死します。場合によっては筋肉の方まで組織の破壊が進み、大きな血流に細菌が投げれ込むと、発熱が起こり、入院が必要なこともあります。
粉瘤はごみ袋のような袋に包まれており、中にはゴミが詰まっています。何か物理的な刺激が加わり、ごみ袋が破れると、カラダの中にゴミが撒き散らされます。それにカラダはびっくりしてしまい、炎症を始めます。これは主に異物反応です。そこに皮膚にある常在菌が更に広がり感染が起こります。
いきなり感染が起こると考えている先生も多いですが、ほとんどは異物反応から炎症が起こります。そのため、抗生剤だけで炎症を治めることは少し難しくなります。異物反応の原因を取り除く事が一番のポイントになります。
そのため、炎症が起こった際には抗生剤で粘るのではなく早期の手術を勧めます。炎症が持続することで皮膚の壊死は進み、組織の破壊も進みます。結果的に傷跡も残りやすくなってしまいます。
手術:炎症性の粉瘤の場合には痛みが強いため、局所麻酔をしっかり打つ必要があります。
麻酔を十分に打ったところでパンチでくり抜きます。
炎症のため、内容物に膿瘍が混じっています。まだ炎症が起こり日が浅いため、内容物がはっきりしていますが、炎症が進むと、すべて膿瘍になってしまいます。
皮膜も溶けてしまいますが、今回はある程度はっきりした状態で摘出出来ました。
皮膜が薄い人や炎症で溶けてしまうと摘出が難しくなります。一部でも残してしまうと腫瘍は再発してしまいます。
炎症を切開排膿のみで経過を見る場合もありますが、内容物が残るため、炎症がなかなか治まらず、毎日洗浄という地獄の日々を過ごす事になるため、全摘出をお勧めします。
創部は炎症が強いため、一針の縫合で終了しました。創部の炎症が強すぎる場合には創部は開けたままにしないと、血腫などにより、感染が持続することもあり、注意が必要です。
形成外科専門医 古林玄
大腿部にできた大きな粉瘤治療/日帰り
今回は16㎝大と非常に大きな粉瘤の症例です。動画は下に載せています。
一度に切除するか悩みましたが、あまりに大きいため、一度に腫瘍を切除せずに粉瘤の内容物を出し、腫瘍が一度小さくなったところで再度切除する方針としました。
一度に手術しなかった理由
大きな腫瘍を一度ですべて切除してしまうと、切開部位が非常に大きくなってしまいます。今回は大腿部であるため、動いてしまうと血腫が出来たり傷が開いてしまうリスクが大きくなります。手術をするにしても入院が必須でしたが患者様の都合もあり、入院が難しいため、日帰りでの手術を希望されました。
また、大きな腫瘍を摘出すると、大きな空洞が皮下に出来てしまいます。それが死腔(dead space)です。ここに術後血腫などが出来やすくなってしまいます。16㎝大の腫瘍を取るとかなり大きな死腔が出来てしまい、また、術後の歩行によりトラブルが起こる可能性が高くなってしまいます。
内容物のみを除去するデメリット
内容物のみを出して腫瘍が小さくなったところで手術することも実はデメリットが存在します。
内容物を残して手術を終えるため、術後に感染をしてしまうことです。また内容物が皮下に漏れ出ることで異物反応が起こり、炎症が起きることもあります。そのため、術後は傷を開けた状態で帰宅してもらい、自宅で洗浄処置を継続してもらうことでしっかりと感染予防を行う必要があります。
感染コントロールがうまくいき、腫瘍が小さくなれば、切除を小さくして手術をすることができます。
2度目の手術は3か月後くらいを予定しています。
経過はまた後日アップします。
形成外科専門医 古林玄
お尻にできた粉瘤の治療/痛み症状あり
10㎝大の臀部(お尻)の粉瘤です。
10年以上放置していたそうですが、粉瘤は少しずつですが確実に大きくなってしまいます。
かなり大きな粉瘤になりますので、くりぬき法では困難になります。
くりぬき法でも取れなくはないのですが、長年皮膚が伸ばされてしまっているため、小さな傷で取った際に、余剰の皮膚が出てきてしまい、皮膚のたわみが出てきてしまいます。
太った人が痩せた時に弛むのと同じ状況ですね。
なので今回は切開法を選択しました。
切開法では余剰皮膚を考慮して、紡錘形の切開ラインをデザインします。丸く切るとdogearと言うものが術後に出来てしまい、切開部位の両端に犬の耳のような盛り上がりが出来てしまいます。
そのため、切開ラインは腫瘍よりも長くなり、15㎝程になってしまいました。
術中の写真です。
腫瘍の周囲を剥離し、腫瘍の摘出を行います。この症例では癒着はそこまでありませんでしたが、大きいため、底部の剥離がやはり困難でした。一度腫瘍をやぶり、腫瘍を小さくしてから摘出するのも一つですね。今回は一塊の摘出にこだわりましたが、特にこだわる必要はないと考えています。形成外科では袋を破らない事にこだわる先生が何故か非常に多いですが、傷を小さく腫瘍を切除するなら袋を破り、中身を取り出すことは必須です。中身を除去し、腫瘍を小さくすることで、裏面の剥離が容易です。袋を破らないことで、皮下組織との境界が分かりやすくはなりますが、あまりメリットはないです。
今回の症例では余剰皮膚の切除が必須になり、どうしても傷が大きくなってしまうため、敢えて袋を破らずに切除しました。
大きな腫瘍が取れました。
取るのも大変ですが、大きい腫瘍はここからが大変です。
それは創部の縫合です。腰に近いため、動きやすい部分でもあるため、しっかりと皮下縫合を加え、閉創する必要があります。簡単そうに見えますが、非常に時間がかかります。
傷の縫合は形成外科専門医の先生でも意外に適当な先生も多いです。
特にいい師匠に出会ってない場合や、医局によってはかなり縫合の上手さに差があります。
傷を丁寧に縫うことで保険点数が上がるわけでもないので、そこは形成外科自身のこだわりになる事が多いですね。
がん研有明病院や聖路加国際病院で、上司の先生に恵まれたので、非常に沢山の事を教えていただきました。縫合もちゃんと自信がついたのは形成外科をして4年目くらいからかもしれません。
偉そうに言いましたが私もまだまだ勉強中です。
動画も最後に載せておきますので、手術に興味のある人は観てください。苦手な人は控えて下さいね。
形成外科専門医 古林玄
お尻の毛巣洞の治療について専門医が徹底解説
臀部の毛巣洞の写真です。ペンで書いてしまっているので分かりにくくなってしまっていますが、肛門の上から頭側に掛けて炎症が広がっています。
毛巣洞は肛門の頭側の皮膚に生じる事が多いです。体毛が濃い、多毛、長時間の座位により、体毛が皮膚に刺さり、出来ると考えられています。また脇などの毛の多い部位などにも生じます。感染すると炎症が起こり、痛みが出たり、膿が出てきます。そのため痔瘻や化膿した皮膚腫瘍、粉瘤とも間違えられることがあります。意外にも毛巣洞を知らない先生も多いため、毛巣洞の原因の部位に気づかず、頭側の膿を排出している皮膚だけを外科的切除することもありますが、確実に再発してきます。
炎症を繰り返すことにより、皮膚の中にばい菌の巣のようなものが出来てしまい、定期的に腫れ、座る事も難しくなります。炎症によりどんどん広がり切除も困難になるため、早めの切除が非常に重要になります。
今回の症例は毛巣洞により何度も腫れを繰り返し、皮膚の中で腫瘍が広がり、4か所で腫れを繰り返し、膿を排出しています。手術により原因の毛巣洞を切除し、膿を排出する皮膚とばい菌の巣を同時に摘出しています。今回は皮弁を小さく作製し、創部の閉創を行っています。小さい状態であればそのまま閉創できる事が多いですが、大きい場合にはやはり皮弁による手術が必要になることもあります。大きいものは入院が必要になる場合もあります。
毛髪が多かったり、濃い場合に出来やすいため、繰り返す場合には脱毛により予防をすることもあります。
形成外科専門医 古林玄