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2021.05.25

腰にできた粉瘤(しこり、できもの)の治療 日帰り/くり抜き法

今回の症例は腰部の粉瘤です。動画は下に載せています。

大きさは約5㎝です。

腰の粉瘤

少し大きく、余剰皮膚も出る可能性もあったため、紡錘形に1.5㎝程切開ラインをデザインし、手術を行いました。

今回の症例では粉瘤によく見られる開口部が見つけられませんでした。元々ない症例もありますし、炎症を繰り返した場合に分からなくなる場合があります。

開口部を取り残すと必ず再発します。麻酔を打つことで小さな開口部が拡大し、見つけられる事もありますし、敢えて腫瘍の中に麻酔を打つことで開口部より噴水のように麻酔が噴き出し、開口部を見つけられる事もあります。

今回はありませんでしたので、開口部はないものとして治療を終えましたが、隠れている場合は再発します。

炎症のない症例でしたので麻酔は切開部位だけ行います。カラダの中は意外に痛みがありません。痛みがあればその都度、追加します。

内容物はかなり多かったです。10年近くはあったようです。

腫瘍を皮膜ギリギリで剥離することで出血を最小限に抑えます。無理やりとると出血が多くなりますが、綺麗に膜の部位だけを剥離します。ハサミで切る場合もありますが、ハサミの先を膜と組織の間に滑りこませながら腫瘍を摘出します。

一部破れていますが、しっかりと切除出来ました。

創部を縫合し、手術を終了しています。

形成外科専門医 古林玄

 

2021.05.17

お尻のしこり、できもの(粉瘤)治療/炎症あり

本日の症例は炎症性の粉瘤です。動画は下に載せています。

お尻の炎症性粉瘤

10年前からお尻に粉瘤があり、ある日、痛みを伴い炎症を起こしてしまいました。

大きな粉瘤の方が大きな炎症が起きるので注意が必要です。今回の腫瘍も置いておくと、更に炎症は広がり、組織の破壊が進み、皮膚が壊死します。場合によっては筋肉の方まで組織の破壊が進み、大きな血流に細菌が投げれ込むと、発熱が起こり、入院が必要なこともあります。

炎症が起きるメカニズムはこちら①,②,③にも載せています。

粉瘤はごみ袋のような袋に包まれており、中にはゴミが詰まっています。何か物理的な刺激が加わり、ごみ袋が破れると、カラダの中にゴミが撒き散らされます。それにカラダはびっくりしてしまい、炎症を始めます。これは主に異物反応です。そこに皮膚にある常在菌が更に広がり感染が起こります。

いきなり感染が起こると考えている先生も多いですが、ほとんどは異物反応から炎症が起こります。そのため、抗生剤だけで炎症を治めることは少し難しくなります。異物反応の原因を取り除く事が一番のポイントになります。

そのため、炎症が起こった際には抗生剤で粘るのではなく早期の手術を勧めます。炎症が持続することで皮膚の壊死は進み、組織の破壊も進みます。結果的に傷跡も残りやすくなってしまいます。

 

手術:炎症性の粉瘤の場合には痛みが強いため、局所麻酔をしっかり打つ必要があります。

麻酔を十分に打ったところでパンチでくり抜きます。

炎症のため、内容物に膿瘍が混じっています。まだ炎症が起こり日が浅いため、内容物がはっきりしていますが、炎症が進むと、すべて膿瘍になってしまいます。

皮膜も溶けてしまいますが、今回はある程度はっきりした状態で摘出出来ました。

皮膜が薄い人や炎症で溶けてしまうと摘出が難しくなります。一部でも残してしまうと腫瘍は再発してしまいます。

炎症を切開排膿のみで経過を見る場合もありますが、内容物が残るため、炎症がなかなか治まらず、毎日洗浄という地獄の日々を過ごす事になるため、全摘出をお勧めします。

創部は炎症が強いため、一針の縫合で終了しました。創部の炎症が強すぎる場合には創部は開けたままにしないと、血腫などにより、感染が持続することもあり、注意が必要です。

形成外科専門医 古林玄

 

 

 

2021.05.08

肩にできた粉瘤(しこり、できもの)の治療 日帰り/切開法

今回の症例は肩の大きな粉瘤です。約10㎝大の粉瘤になります。動画も下に載せています。

肩の粉瘤

くり抜き法でも手術は可能かもしれませんが、余剰皮膚が出そうな症例でしたので切開法による手術を選択しました。

腫瘍上に紡錘形に切開ラインをデザインします。

局所麻酔を注射し、メスで切開を行います。局所麻酔には麻酔薬による痛みを軽減するためにメイロンを混ぜています。これについてはまたどこかでブログに載せます。

腫瘍に切開を加え、腫瘍の周囲を丁寧に剥離を行います。

腫瘍は皮膜ぎりぎりで剥離を行うことで出血を抑えることができます。また、組織をうまく剥離できれば、指だけで腫瘍を切除できます。

今回は膜の非常に薄い部位があり、圧力がかかり、一部破れてしまいました。無念。

ただ、正直なところ、皮膜を破らずに取るか取らないかは形成外科医のエゴです。

膜を破らずに取れと、若い時は上級医に教わりましたが、全くその必要はありません。

膜を破り、小さくなったところを切除する方が遥かに腫瘍は容易に切除できます。今回でも内容物が出てから容易に裏面を剥離することが出来ました。

腫瘍が大きいままだと、小さな切開では裏面の剥離が非常に困難になってしまいます。

もちろん、内容物が内部に漏れてしまうと炎症のリスクがあるので、内容物が漏れた場合にはしっかりと洗浄する必要があります。

摘出された腫瘍です。綺麗には取れませんでしたが、再発のないようにしっかりと腫瘍の切除を行い、創部を洗浄しています。

創部に16Gドレーンを挿入し、閉創します。

監修:形成外科専門医 古林玄

2021.04.21

首にできた粉瘤の治療/日帰り

今回の粉瘤は頸部の4㎝大の粉瘤です。動画は下に載せています。

頸部 首の粉瘤

炎症もしており、少し取り辛いことを予想して手術を行います。

また頸部は大血管の走行している部位であり注意が必要です。

術前にしっかりとエコーで血流を確認し、腫瘍との位置関係を明確にします。

炎症も強いため、血管との癒着には注意が必要です。

そのため、腫瘍上に小さい切開を加えることで手術を開始しました。

内容物を取り出します。

被膜の剥離を行いますが、やはりかなり癒着が強く、切除が困難な状態になっていました。少しずつ癒着を剥離し、腫瘍を摘出します。

腫瘍を取った内部は大きな空洞(死腔)が出来るため、16Gサーフローを利用したドレーンを作成し、挿入します。血腫予防になります。

ドレーンは問題なければ翌日抜去します。自己抜去も可能です。

翌日ドレーンを抜去してからシャワーが可能になります。

創部は軟膏をしっかり塗布して、一週間後に抜糸となります。

袋はかなり破れてしまいましたが、残りの袋がないか、最後に確認しています。癒着が強かった証拠ですね。

形成外科専門医 古林玄

 

2021.04.18

デルモイドシストの症状/治療を専門医が徹底解説

デルモイドシスト(dermoido cyst:皮様嚢腫)とは 

 粉瘤と間違えやすい腫瘍としてデルモイドシストが挙げられます。

 デルモイドシストは胎生期の遺残物で目の上、鼻周囲、耳の裏などの骨縫合部などに出来やすく、腫瘍の内容物は黄色の液体(皮脂、角質)と毛髪が貯留している。約半数で出生時より腫瘍を認める。

 男女比は特にありません。 

 汗腺や皮脂腺の発達する思春期に急速増大を認め、その際に見つかることもある。

デルモイドシスト dermoid cyst

症状

 基本的には特にありません。ぶつけたり触ったりすることで腫瘍の嚢胞が破れると異物反応が起こり、炎症が起きることがあります。炎症が起きると疼痛があり、瘢痕が残ります。

 

原因

 原因ははっきり分かりませんが、発生過程で骨と骨が癒合する際に,外胚葉組織の迷入が生じるためと考えられています。

 

診断

 ほとんどはエコーで診断がつきますが、大きい腫瘍ではCTやMRIを撮影する場合もあります。

 

鑑別疾患

 粉瘤、奇形種、石灰化上皮腫、類表皮腫、神経線維腫、毛髪嚢腫、など

 

治療

 手術による摘出が必要になります。 

 粉瘤とは違い骨の癒合部位から発生しているため、手術は粉瘤の摘出よりは格段に難しくなります。また、腫瘍は筋層より深くなるため、術後の血腫や神経損傷にも気を付ける必要があります。基本的には切開による腫瘍摘出になります。

 小児では全身麻酔が必要な場合もあります。

デルモイドシスト

今回の症例では眉下に切開を加える事で出来るだけ術後の傷跡が目立ちにくいようにします。

腫瘍は眼輪筋の下にあり、少し出血が多くなります。

腫瘍を骨膜の癒着部位から剥離し、腫瘍を摘出します。

腫瘍を摘出し、十分にバイポーラを使用し、止血します。

創部は眉毛下に重なり、毛髪も生えてくるため、傷は目立ちにくくなります。

腫瘍を切開し、中身を確認しました。

内容物はやはり毛髪と皮脂、角質になります。皮脂が黄色く見えています。

成人になるにつれ、どんどん大きくなってしまうため、早期の摘出をお勧めします。大きくなれば大きな切開が必要になります。

形成外科専門医 古林玄

2021.03.29

おでこの脂肪腫治療/切開

 

前額部の脂肪腫 

今回は前額部の脂肪腫摘出です。下に動画も貼り付けています

粉瘤と間違えて来院する患者様もいらっしゃいますが、脂肪腫は粉瘤とは全く別の腫瘍です。

カラダのどこにでも出来ますが、前額部、肩、後頚部に出来る事が多いです。原因ははっきりとは分かりませんが、脂肪腫には血管脂肪腫(angiolipoma)の良性のものから脂肪肉腫などの悪性のものまで存在します。6cm以上のものや筋肉内にあるものは悪性を考慮して切除する必要があります。

前額部には外骨腫という腫瘍も出来やすく、小さいものでは間違える場合があります。

術前のエコー検査で診断を行い手術を行いますが、エコーに慣れていないと、開けてビックリすることもあります。外骨腫であってもノミとツチさえあれば切除出来るので特に問題はありません。

正確な検査ではCTやMRI検査があげられます。分かりにくい腫瘍の場合には術前に画像検査をする場合もあります。

症例の続きです。

手術はオデコのシワに沿って切開を加えます。

前額部の脂肪腫

腫瘍の直上に切開を加え、アプローチします。

前額部の脂肪腫で注意することは頭の感覚を支配する神経(眼窩上神経、滑車上神経)を傷つけない事、脂肪腫が前頭筋下にあり骨上にあることです。

腫瘍が神経と絡んでいる場合には、神経を切らないと腫瘍を取れないこともあり、術前に説明が必要になります。

腫瘍は骨上にある事がほとんどなので、慣れていない場合には筋肉上の腫瘍をずっとさがしてしまい、筋肉を大きく傷つけてしまう場合があります。腫瘍が見つけられず、筋肉を切除して終わる先生もいます。

腫瘍を切除した状態です。

創部を縫合し、手術を終了しています。

今回は中縫いだけで創部を縫合しています。

この辺りは形成外科でも賛否両論ありますが、中縫いだけで創部が綺麗にあった場合には、それが一番キレイになるとも言われています。外縫いは中縫いが合わなかったときに補助的に高さを合わせるためでもあるので、創部の高さが合っている場合には必要ないこともあります。また外縫いを強く縫いすぎると糸の痕が残ってしまう場合もあります。線路のような傷跡になります。中縫いだけで創部を合わせるのは高い技術が必要になります。

また吸収糸がいいのか、ナイロンのような吸収しない糸で縫うのがいいのかも答えは出ていません。患者様は吸収糸がいいと思い込んでいる場合もありますし、先生でも吸収糸がいいと考えている先生も多いですが、一概には言えません。これについてはまたお話します。

最後に動画を貼り付けておきます。

形成外科専門医 古林玄

2021.03.08

首にできた粉瘤治療について/くりぬき法

首の粉瘤

首の粉瘤提出について解説します。動画は下に載せておきますので苦手でなければ観てください。

今回は約1.5㎝程の粉瘤です。2年程前からしこりが首に触れていたようです。徐々に大きくなり当院へ来院されました。

今回の症例では炎症が過去に起こっていなかったため、非常に取りやすい状態でした。自分でいじってしまったり、ぶつけやすい部位に出来ると炎症が起こってしまうので注意が必要です。

炎症が起きる理由のほとんどは自分でいじったり、ぶつけたりすることで粉瘤の袋が破れ、異物反応を起こすことが挙げられます。炎症を起こすと、痛みが出て、色素沈着と瘢痕を残してしまいます。できるだけ袋を壊さないように生活することが大事なので早く取ってしまう事をお勧めします。

首の粉瘤 麻酔

まずは局所麻酔をします。炎症していない症例では表面に少し打つだけで麻酔は効いてしまいます。

今回の症例でも少量ですがもう少し少なくても問題ないでしょう。

首の粉瘤

パンチを使用し、開口部を含めて切除します。炎症していると開口部が見つからない場合もあるので注意が必要です。

首の粉瘤 術中画像

圧迫を行い、腫瘍の袋の中に溜まった老廃物を取り出します。

粉瘤 首 術中

袋が小さくなったところで腫瘍の周囲を剥離し、腫瘍を摘出します。

症例により袋が柔らかかったり、丈夫に出来ていたりします。臀部などでは袋が分厚く硬いこともあり、炎症せずに大きくなることが多いです。

首は比較的柔らかく、壊れやすい膜になっています。また炎症すると袋の膜も壊れてしまい、非常に摘出するのが難しくなります。

今回は小さかったですし、炎症も起きていなかったため、簡単に腫瘍を摘出することが出来ました。大きくなったり、炎症が起きると切開法により手術をすることになり、傷跡も目立ちやすくなります。見つけた際には触らずに、大きくなる前に病院を受診することが大事になります。

しこりが気になり、皮膚科を受診して『気にしなくていいよ』と言われて放置した結果、炎症を起こした患者様が当院にも沢山来院されます。手術が苦手な先生や忙しい先生は切除してくれない事も非常に多いため、形成外科を受診することをお勧めします。

 

形成外科専門医 古林玄

 

2021.03.07

顔面にできた粉瘤の治療 日帰り/くり抜き法

顔の粉瘤

顔の粉瘤手術の紹介をします。動画も最後にありますので苦手でなければ観てください

顔も比較的、粉瘤の出来やすい部位です。皮膚は頭の先から足の先まであり、人体最大の臓器ともいわれています。皮膚についてはまた今度、詳しく解説しますが、皮膚は垢を出したり、脂を出したり、汗を出したり、毛髪を生やしたりと、毎日たくさんの老廃物を出します。美容外科の高須先生は『皮膚は肛門です』と斬新なことをおっしゃっていましたが、私も本当にその通りだと思います。

皮膚自体は化粧水などで何か栄養を吸収させれるようなところではありません。常に老廃物を出しており、自然に体の外に出るようになっています。しかし、肌のターンオーバーの遅れがあると肌に老廃物が詰まってしまいます。詰まった老廃物をヒトは吸収することは出来ないため、炎症を起こして、皮膚を破壊します。その結果、老廃物がやっと外に出ることになります。

しかしその際に肌を強く破壊してしまうため、傷跡が残ったり、色素沈着が残ります。

一番大事なことは老廃物を上手に出せるような肌を作る事になります。これについても、今度まとめようと思います。

顔の皮膚は比較的多くの老廃物を出す部位であるため、ニキビや粉瘤などが出来やすくなります。そしてニキビも炎症を起こすと大きく腫れあがり、炎症後にはしこりが残るため、よく粉瘤と間違えて来院される患者様も多くいます。しかし、ニキビが悪化して繰り返している場合には切除をすることもあります。皮膚の老廃物を出す能力が炎症により壊れてしまい、結果的に粉瘤のように老廃物をためて粉瘤のように炎症を更に繰り返します。その際にはしっかりと壊れた皮膚を切除することがあるため、切開により切除することが多くなります。炎症を繰り返す前に何らかの手を打つことが大事になります。

今回の症例は今まで腫れたこともない症例であるため、比較的摘出しやすい症例でした。

顔の粉瘤 パンチによるくりぬき法

局所麻酔を行い、3mmパンチを使用し、皮膚に穴をあけます。

顔の粉瘤 術中写真

しっかりと中身を絞り出し、粉瘤の袋を小さくします。

顔の粉瘤 摘出後

小さくなった袋を取り出すことで3mmの穴から腫瘍を取り出すことが出来ました。

顔 粉瘤 摘出後

創部を縫合し、手術を終了しています。

顔は人に見られる部位でもあるため、出来るだけ小さな傷で取る事を意識しなければいけません。くりぬき法は炎症の起こっていない腫瘍には非常に有用なやり方になりますが、何度も炎症を繰り返してしまうと、切開法による手術を選択することもあります。また4㎝を越えた症例でも切開を考えなければいけません。

もう一つの考え方としては再発覚悟で小さい穴から腫瘍を取り出し、再発してしまった場合に、また小さい穴から腫瘍を取り出す方法です。顔などで大きな腫瘍ができてしまい、どうしても傷を小さくして、腫瘍を取りたい場合には選択の一つになるかと思います。診察の際に手術方法についてはそれぞれの患者様に一番適した方法を紹介させて頂きますのでお気軽にご相談ください。

形成外科専門医 古林玄

2021.03.05

耳にできた粉瘤(アテローム)の治療 日帰り/切開法

耳の粉瘤

耳裏に出来た粉瘤の摘出について解説します。最後に動画も貼り付けていますので苦手でなければ観てください。

耳は粉瘤の比較的出来やすい場所です。

耳の周りは脂腺が多く、たくさんの脂が出ます。体質にもよりますが男性に多い傾向にあります。

また耳はヒトのカラダの部位でも特に立体的な部分でもあり、老廃物が溜まりやすいことも原因になります。耳の裏面から頚部にかけてが特に粉瘤が出来やすい部位になります。

耳の皮膚は薄いため、背部のように皮膚の下でこっそりと大きくならずに、浅い皮膚の下で大きくなるため、比較的大きくなった際にすぐに見つけられます。

大きくなると皮膚を拡張してしまうため、くりぬき法で皮膚を残して摘出すると、皮膚が余り、術後に形態が悪くなってしまいます。

そのため、皮膚の浅い部位である程度大きくなってしまった粉瘤は切開により余剰皮膚を切除しながら、腫瘍の摘出をする必要があります。

そのため、余剰皮膚をある程度計算に入れながら切開ラインをデザインします。デザインを行い、消毒をした後に局所麻酔を打ちます。耳は元々鈍感な部位であるため、比較的麻酔の痛みも少なく手術ができます。

メスで切開を行い、腫瘍の周囲の剥離を行います。

耳のの粉瘤 摘出画像

今回の症例では粉瘤の開口部は表側にあったため、表の開口部を2㎜パンチでくりぬき、表側は出来るだけ傷が目立たないように処理しています。開口部は必ず切除しないと再発してしまうので、術中によく確認しなければいけません。しかし、炎症を繰り返している時には開口部が行方不明になることもあり、再発の要因になることもあります。また、元々開口部がない症例もあります。

開口部を摘出できたところで、腫瘍を摘出します。

耳の粉瘤 摘出時

腫瘍を摘出した後は創部の止血を確認します。術後に出血があると創部内に血腫ができるため、注意が必要になります。血腫が出来ると感染の原因になったり、傷の治りが遅れたりするため、創部に大きな空洞(死腔)が出来る場合にはドレーンという管を挿入する場合もあります。

また術後に運動をすることで血圧が上がり、血が出ることもあるので基本的には術後は安静が必要になります。心臓にステントが入っている患者様はバイアスピリンなどの抗凝固剤を飲んでいる場合があるため、血腫の可能性が上がってしまいます。小さな腫瘍を摘出する場合にはそのまま当日手術をすることが出来ますが、大きな脂肪腫を摘出する場合などにはバイアスピリンを術前に中止する必要がある場合もあります。

十分に止血を確認後に創部の縫合を行います。

耳の粉瘤 術後

術前に余剰皮膚をある程度は計算しますが最終的には微調整が必要になります。耳の裏側でも皮膚が薄い部位は術後にドッグイヤーが目立つこともあるため、皮膚を調節しながら縫合します。結果的には傷は長くなってしまいますが、腫瘍により皮膚の緩みがある部位は比較的、綺麗に治癒することができます。

基本的に抜糸は約1週間後としています。糸を長く放置してしまうと、細い糸でも糸の痕が残ってしまいます。

そして、術後は軟膏処置をしっかりして頂いています。術後に軟膏が塗れていないと糸がバイ菌の感染源になり、炎症により傷痕が残りやすくなります。術後の1週間は傷が治る上では1番大切な時期であるため、炎症を起こさずに治癒させることが非常に大事になります。

抜糸後はテープ固定とヒルドイドによる処置を1ヶ月から3ヶ月の間していただいています。

一般的な傷の治癒として術後1ヶ月は傷は硬くなり、3−6ヶ月かけて少しずつ柔らかくなります。意外に傷が治るのには時間がかかってしまいます。

また今度、傷の治癒についてもブログをアップさせてもらいますね。

形成外科専門医 古林玄

2021.03.02

背中にできた粉瘤の治療 日帰り/くり抜き法

背部の粉瘤

背部の粉瘤の摘出です。

大きさは3.5㎝程あります。皮膚の浅い部位に出来たため、大きく膨らんでしまっています。約3,4年前から腫瘍を認めていましたが、大きくなるまで放置していました。

大きくなると、袋がなんらかの形で破れてしまい、異物反応が始まります。それが炎症です。

炎症が起こると3つの嫌な事が起こります。

➀術後の再発率が上がる

➁傷跡が残りやすい

③麻酔の際に痛みが強い 

炎症時の術後の再発率が上がる理由は開口部が行方不明になったり、炎症が袋の破れた真上を中心に出来るため、開口部とは離れたところに新しく穴が開いてしまう事が挙げられます。意外にもこの事を知らずに手術してしまう形成外科の先生も多いため、再発率があがってしまいます。なので炎症の際にはかなり経験が問われます。炎症の時には開口部がほとんどの場合でズレていることを強く意識しなければいけません。

傷跡が残る理由は炎症の強さと程度がそのまま色素沈着や傷跡になってしまうからです。強くダメージを受けた皮膚はそれだけ強く治ろうとするため、硬く、ひきつれて治ります。体質や場所によってはケロイドになってしまう事もあります。炎症を早く治めるためにも早めに手術をすることが大事だと考えています。炎症が治まってから手術をすることが一般的とはされていますが、抗生剤はあまり効かないことが多く、炎症が進行し、皮膚に穴を開けて、大きな傷跡になってしまう事も多々あります。切開排膿のみの場合でも中に老廃物は沢山残っているため、炎症はなかなか治まりません。毎日洗浄処置という辛い処置が待っています。

炎症の際に麻酔が効かない理由は炎症により㏗がずれることだと言われています。そのため、麻酔薬が広がらず、効きにくくなります。また、炎症により体は緊急事態宣言を発令するため、痛み物質を大量に放出します。そのため、少し触られるだけでも痛くなります。

 

話はズレましたが症例を紹介します。今回の症例は大きいですが、炎症のないピュアな状態で非常にシンプルで簡単に手術を行う事ができました。

背部の粉瘤 麻酔時

これは局所麻酔をした後の画像です。

局所麻酔にはボスミンが入っているため、血管収縮作用により皮膚の血流が止まり、組織が白くなっています。

局所麻酔にボスミンが入っている理由は

➀血管収縮作用により、術中の出血を減らせる

➁組織の血流を止めることにより、麻酔薬が長く留まり、持続時間が伸びる

③麻酔薬には極量といって使用できる量が体重で決まっているのですが、そこに長く麻酔薬が留まることにより、極量が増やすことができます。

これらも意外に知らずに麻酔を使用している先生も多いですが、非常に重要なポイントになります。また当院では麻酔の痛みを和らげるためにメイロンを混ぜることで、phを調節し、体への負担を軽減しています。

背部の粉瘤 術中写真

中身の老廃物を排出することで袋を小さくしています。

それにより小さな穴から、袋を取り出すことが出来ます。

背部の粉瘤 摘出

袋の切除画像です。

背部 粉瘤 摘出後 創部

創部の縫合です。粉瘤が大きくなってしまい、皮膚の余剰はありますが、これくらいなら時間とともに皮膚は目立たなくなります。

耳などの皮膚の薄い場所では余剰皮膚を同時に切除しないと、皮膚のたわみが術後に出てしまうため、注意が必要になります。

 

動画も載せておきます。

形成外科専門医 古林玄

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